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<span class="fontBold">駒村 多恵(こまむら・たえ)</span>タレント・フリーキャスター。1975年生まれ、大阪府出身。NHKの「あさイチ」ではサブキャスターとして、「解決!ゴハン」「スマイフ」「グリーンスタイル」を担当している。介護福祉士、介護食士3級、環境カウンセラーの資格を持つ。(写真:竹井靖弘、以下同)
駒村 多恵(こまむら・たえ)タレント・フリーキャスター。1975年生まれ、大阪府出身。NHKの「あさイチ」ではサブキャスターとして、「解決!ゴハン」「スマイフ」「グリーンスタイル」を担当している。介護福祉士、介護食士3級、環境カウンセラーの資格を持つ。(写真:竹井靖弘、以下同)

誤嚥の怖さから、図表には力を入れました!

駒村:私も自宅で母親を介護して、食事も作ったりするのですが、『希望のごはん』を読んで、改めて感じたのは、介護される側の状態が変わってくると、作る料理も変えなくてはならないこと。これの見極めがやっぱり大変ですよね。

クリコ:そうですよね。おうちで作るときに、そこまで普通は考えませんよね。でも、やっぱり誤嚥(ごえん)の問題などもあるので、確かに危険でもあるから、それはやっぱり分かった上で作らないといけないのに、意外と知られてないですよね。

駒村:最近はずいぶん「誤嚥」ということが話題になっていますけれど。

クリコ:私が6年前に介護食を作り始めたときって、ぜんぜん知られていなくて、主人の料理を作るときに何か参考になる情報はないかなと思って、ある病院のサイトでこの言葉を知って、「つるつる滑るものとか、刻んだものが誤嚥につながって、すごく危ない」というのを初めて知って、えーっ、そういう料理これまで作って食べさせちゃった! と思って、すごくどっきりして、何でこれを病院の先生は教えてくれなかったんだろうと思いました。

駒村:だから、この本にはレシピとは別に、「噛む、飲み込む力に合わせた食べやすい食品の形状と状態」の表や写真があるんですね。

クリコ:はい、ここはもうこだわって分かりやすく作りました!

駒村:思うのですが、誤嚥の危険を軽視してはいけない一方で、その逆のパターンもあって。「誤嚥のリスクがあるから、食べることはやめましょう」という。

クリコ:ああ。

駒村:患者の側としては、飲み込める力がまだ残っているから、それは生かしていきたい。生かしていきたいんだけれども、「誤嚥して肺炎になって、死んじゃったらどうするんですか」と言われたら、あきらめざるを得なくて、その辺のせめぎ合いも実はすごくあって。

クリコ:すごくよく分かります。

駒村:それで、実は私、嚥下(えんげ)のセミナーに行ったんですよ。ついこの間なんですけど、「口から食べる」ということにこだわっている団体があって、そこのセミナーに行ってきたんですけど、スプーンを入れるテクニックで全然違うんですよ、飲み込み具合が。

クリコ:おおっ!

目から鱗の、誤嚥を避ける食べさせ方

駒村:例えば、舌でつぶせるぐらいの堅さのソフト食だったとしますよね。ただそれをざくっと取ると、スプーン山盛りになっちゃう。だけど、薄くスライスして取って、スプーンの背をなるべく舌の中央に載せる。そうすると、唇や舌の動きの悪い人は飲み込みやすくなる。同じ食べ物でも食べさせ方でリスクが減らせる。これは目からうろこだ! と思いました。

クリコ:聞きたかったんです、そういう目からうろこ情報!

駒村:これは、摂食えん下障害を持つ患者さんの食べる力を回復させようとしている看護師の、小山珠美さんという方がやってらっしゃるんです。例えば、ご飯とおかずを食べるとき、普通、私たちは、ご飯にめんたいこをよく混ぜて食べると、味が混じっておいしいわと思いますよね。

 なので、私は母の介護で、ソフト食でもおかずとご飯を混ぜて食べさせていたんですけど、実は、ごはんとおかずのブロックが複数にばらけていることによって、1つは食道に、1つは気道に行ってしまうというリスクがある。咀嚼力があって口の中でひとまとめにできる人はごはんとおかずを同時にいれてもかまわないんですけれど、それが困難な人は1品ずつ食べてもらう方が安全なんですって。

 それが例えゼリー1種類でも、クラッシュにしたものはまとまりがなく、ばらつきが強いので、実際に造影剤で見ると、口やのどでばらけてしまって、それらが食道と気管の両方に入って誤嚥を引き起こすリスクが高まるんです。

クリコ:なるほど。

駒村:知らず知らずのうちにやっていたことが、実は誤嚥リスクにつながっていることもあるので、その辺の情報をしっかりと精査して得ていくということが、これから在宅介護にとってはとても大事なことだと思いました。食事の喜びを大事にしていくためにも、ですね。

クリコ:この間、小学校2年生の脳性まひのお子さんがいらっしゃるお母様にうちの料理教室に来ていただいたんですね。そのときにそのお母様がおっしゃるには、病院の先生には、誤嚥する可能性があるので、基本的に流動食以外はだめ、と言われるんですって。

駒村:そうなんですよね。

クリコ:「でも、この子はお兄ちゃんが食べているものを見て、それを食べたいと言うんです。この子もだんだん大きくなってきて、ミキサーにかけるとおいしくないというのが分かっている。家族と同じものを一緒に食べたいんです。だから今日、習いに来ました」と、涙ながらにおっしゃって。

 「食べていいですよ」とは私の口からは、もちろん無責任に言えないことです。なので、「分かります」としか申し上げられなかったのですが。私も、噛む力を失った主人が手術を受けるために、体重を増やさなくてはならなくて、ちょっと無理して、短期間で体重が増えるように力業的なことをやったんですけれど、もしかしたら、病院の先生に指示を仰いでいたら、これはだめです、あれはだめですという制約があったかもしれないです。そのときは指導を受けることもできなくて、仕方がなく私が食べさせました。

駒村:分かります。本当に分かります。

食べたいという気持ち

クリコ:お子さんが笑いながらおいしそうに食べている姿を見ると、食べさせてあげたいなとやっぱり思いますよね。だから、誤嚥を避ける料理の作り方、食べさせ方を、広めていくことがすごく大事だと思います。

駒村:私もこの間、「母にはまだ食べる力が残っているから食べさせたい」と病院で言ったら、「お嬢さんが来て食べさせるんだったらいいですよ」と許可をもらいまして。もちろん、それは、家族としてある意味覚悟しながらやるしかないんです。けれど、それによって話す力が回復してきたんですよ。リスクはあるけれども、そこを見極めながら努力をしていくと報われることもあるなという気はしているんです。あくまで、個人的には、ですけれど。

クリコ:分かります。危険だからといって、その機能を使わないままでいくと、どんどん衰えていくし、知り合いのお母様が、デイサービスで流動食ばっかり食べさせられて、「炊いたご飯を食べられた人なのに、家に帰ってから食べられなくなっちゃった」という話もあります。使わないとやっぱり衰えるんですよね。

駒村:そう、早いんです。1週間も使わなければすぐ落ちていくんですよ。せっかく口からの食事に慣れても、手術があって食べられなくなったら、また…。これは日々、戦いですよね。嚥下障害を持つ可能性がある病気の方、介護される方は、そこは絶対にせめぎ合いになると覚悟された方がいいと思います。

クリコ:あとはお母様の食べたいという気持ちですよね。

駒村:そう、水が飲みたい、とか言うんですよね。「飲ませてあげたいけれど、だめと言われているんだよね、今…」と答えるしかなかったり。

クリコ:それはとろみを付けてもだめなんですか。

駒村:だめと言われていましたね。だから、ゼリーはいいと言っていた時期はゼリーを食べさせたりとか。

クリコ:お水はね…、私も主人が手術で水分を取れない時期があって、やっぱりものすごくつらかったみたいで、術後1か月ぐらいしてからかな、飲んでいいですよと言われて、やっとお水を飲んだ、その次に「なっちゃんを買ってきて」と言うので、「なっちゃんって何?」と聞いたら、たどたどしく「なっちゃん、知らないの?、自動販売機に売っているオレンジジュース」としゃべって。慌ててなっちゃんを買ってきて、一口飲んだら、「なっちゃん、最高」と(笑)。

アキオさん、酔っ払い武勇伝

駒村:あはは、この本を拝読して、本当にご主人はかわいらしい方だなと思いました。すごくかわいいですよね。

クリコ:編集の方からは、ものすごく反感を買ったんですけど。

いえ、反感じゃないですよ、あきれかえっていただけで。

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クリコ:書かせていただいたとおり、大好きだったんですけれど、一方では本当に世話が焼ける人で、時々べろべろに酔っぱらって帰ってくるんですよ。そうすると、どこかで必ず転んでいるんです、酔っぱらって。眼鏡がひしゃげていて。眼鏡をいくつ壊したか分からないですよ。酔っぱらっているから痛くないんですよね。ご機嫌で帰ってくる。後輩の方に聞いたら「居酒屋の小上がりで靴も履かせて、タクシーに乗せるまで付いていったことが、何度もあります」と。

駒村:おーっ。

クリコ:みんなにタクシーに乗せてもらっていて、ちゃんと家まで帰ればいいのに、たぶん途中で降りちゃうの。途中で降りて、ふらふら歩いて、どこか例えば何かベンチで寝ていたりとかして。

駒村:駅の下の自転車置き場とかですよね、いる、いる。

クリコ:朝、コートを見ると、木の葉が付いているから、「あなた、外で寝たでしょう」と。「え、覚えてない」とか言うんですが、穿いたまま寝ていた厚手のウールのズボンがびりびりに破れているんです。ウールですよ、ツイードの厚ぼったいのが。慌てて脚を見て、すごいけがをしているんですよ。「大丈夫?」「痛くない、痛くなかった、昨日は。今朝は痛いけど」とか言って起き上がったら枕が血で汚れているとか、そういうのがいっぱいあるんです。

昭和のおっさんとガード下で飲んでます!

駒村:すごく分かります。いますよね、います、います、私の周りにもすごくいます(笑)。そういう、かわいい“昭和のおっさん”、東京・新橋にいそうな人と私はずっと仕事していたんです(笑)。ガード下で、その人たちといつも飲むんですよ。

クリコ:えーっ、本当に?

駒村:「ズームイン!!SUPER」という日本テレビの朝の番組に出ていまして、もう終わって6年以上経っているんですが、「おい、駒村、新橋来るか」みたいな感じで誘われます(笑)。

クリコ:へえー。

駒村:当時、5:20から始まる番組だったんですけど、ある日、朝5時ぐらいに打ち合わせで部屋に入ったら、「下、注意してね」とみんなが言うから何かなと思ったら、番組でいちばん偉い人が、床に横たわって寝ているんですよ!。「おじさん、おじさん、始まるよ、始まるよ」と起こしたら「やべえ、やべえ」と言ってスタジオへ降りていく。

 いつも30年物のアルビレックスのムートンの革ジャンを着ていて、破れたところはガムテープで貼ってあってね。この時期はブーツを履いてカツカツいっている、金髪の男性なんですけど。

 その日の反省会では「俺今日なんも言えねぇ」って、自分のこと反省していて(笑)。

クリコ:あ、何か結構魅力を感じるかも。

駒村:今のお話ですごく思い描いたのはその人でした(笑)。その人も木の葉じゃないけれども、自転車置き場に横たわっていて、家族にLINEして「迎えに来て」と言っても、娘は既読スルーだし、奥さんからは「始発で帰ってきて」と言われるし。

 その上娘から「その革ジャン着てるうちは外で会わない」って言われて、あんなに大事に着てたのに燃えるゴミとして処分したり。

ただの酔っ払い、でも仕事の場ではバリっと!

クリコ:かわいそう。

いや、普通そうですよ。

駒村:だから、クリコさんが後輩に送り届けてってお願いする宅配便方式って、何て優しいんだろうと思うんですよね。。

いやいや、だからそのご家族が普通だと思いますよ。

クリコ:アキオももういい年でしたから、会社でも指示を出す立場になるじゃないですか。酔っ払って帰ってくる姿を見る度に、仕事ちゃんとしているのかな、大丈夫かなとすごく不安でしたけれど、会社の方に聞くと「えっ、家ではそんなだったんですか。会社ではすごく怖いけど、頼りにされてた上司でしたよ」と驚かれて。あ、比較的ちゃんとしてたんだ、と。

駒村さんの仲良しのおっさんたちも、仕事をやらせりゃちゃんとしているわけでしょう。

駒村:すごくできる人なんですよ。緊急の、突発ニュースが入ってきたときに、「よし、あとは任せてくれ」と言って出てきて「絵切り(数台のカメラの撮る画から放送する画を選択)」するんですけど、放送しながら「次、この絵でスタンバイして……その次これいけるか?……はい、いくよ!」って、今やれることを瞬時に把握して絵を先行させて頭の中で いわば脚本を作りながら指示する。バッタバタの状況なのにいつもと変わらない口調で、的確で、こんな言い方もなんなのですが、すごく美しいんですよ、出てくる絵も指示する姿も。

クリコ:かっこいい。

駒村:かっこいい。あの酔っ払って床で寝ていた人が(笑)。「おっさん、おっさん」と言われていたあの人が、と。

いざとなると、めちゃ頼りになると。

駒村:そうそう。すごいんですよ。みんなから尊敬されているし、下の人たちもちゃんと教育してくれる。「今日、ここの画切りがこいつはすごくよかったから、後でみんなで見よう。見たい人おいで」と言って集めて、ちゃんと講座を開いたりもする。すごくいい人なんですよね。

クリコ:かっこいいですね。お話を聞いただけで、好きになる。

駒村:でも、普段は本当にただの酔っぱらいなんですけどね。

クリコ:かわいい。

駒村:アキオさんは、結構職場では無頼派だったんですか。

クリコ:そうみたいです。家では荒っぽい言葉とかも使わないし、すごくソフトで、とにかく本を読んで、読んでいるときだけ静かで、あとは陽気にしゃべっている。穏やかで、まあ、ちょっと手は掛かるけど、かわいい。ちゃんとすぐ謝るし、謝れと言ったら謝るし。

駒村:すごくかわいい。

クリコ:でも、さっきも言いましたけど職場では全然違っていたみたいで、この連載と書籍の仕事で、皆さんの話を聞いて本当にびっくりしました。

駒村:職場復帰の話が描かれていたので、すごく職場の方々の理解があって、アキオさんの人となりだからだろうなとも思いながら読ませていただいたんです。

クリコ:本当にいい職場で、同僚であり、仲間で友達という感じの雰囲気があって、職場に恵まれているんだなと思って。だから、アキオはいつも幸せそうなんですよ。会社へ行くときも幸せそう、帰ってくるときも陽気に帰ってくるし、会社大好きだったんですよね。

駒村:それはアキオさんに、明確な目標があったからじゃないですか。それが、とても、何と言うか、生きる上でとてもプラスだったと思うんですよね。クリコさんの支えがあって、何て幸せな晩年、というか…こんなに幸せな環境で介護を受ける方って、そうそういないだろうなというふうに思いながら。

クリコ:でも、介護をできたのが私はすごく幸せだったんですよ。私はこのときのためにあったんだなと。

駒村:すごく分かる気がします。

倒れたのが私だったらどうなったかな?

クリコ:そうなんですよ。身の回りの世話から何から全部、彼がいつもは頼りない私に全部委ねてくれて、全部させてくれたのが、やっぱり家族なんだなと思えて、介護というか、看病できたのがすごく幸せでした。本当によかったと思って、うれしかったです。逆だったら大変だと思って、主人は料理ができないので(笑)。

駒村:いや、一から覚えてやるかもしれないですよ。

クリコ:1回、私が背骨を骨折したことがあって、リハビリ期間の4カ月の間、アキオが毎朝、ベーコンエッグを作ってくれたんですよ。それが初めての料理でしたね。もう最初は下手で、全部焦げ焦げだったのが、毎日毎日作ると少しずつ上手になるじゃないですか。

駒村:うん、うん。

クリコ:そうしたら、あるとき、二つ作る目玉焼きの片方を失敗して、片方がすごく上手にできたんですよ。で、すっと上手にできた方を私に差し出したんです。「やっと料理をする人の気持ちがこの人に分かったかな」と思った瞬間でした。

駒村:ああ、料理は人のために作るからおいしい。

クリコ:まさにそういうことで、喜んでもらいたいじゃないですか、料理を作る側って。だから、彼は私に喜んでもらいたくて、失敗した方じゃなくて、明らかに大成功な方を出した。これから、こんな日が続くんだなと思ったら、骨折が治った途端に料理をやめたので、な~んだ、と(笑)。

駒村:残念!

クリコ:料理の楽しさに目覚めたかなと思ったんですけどね。だから、私が介護される立場になっていたら、きっと市販のレトルトの介護食品が並ぶんだろうなと。

駒村:そんなことはないと思います。絶対違いますね。

クリコ:できないものはできないでしょう、みたいに開き直るんじゃないかな。

駒村:いや、絶対「これはどうかな、ここはどう? どう直せばいい?」とクリコさんに聞きながら、日々、改善されていくんだと思いますよ。

大変だけど、母のことはどんどん好きになっている

もしくは会社の後輩を連れてくるとかですよ。「お前、料理しろ」と。

クリコ:うん、何か知恵は使ったでしょうね。「どうしたらいいだろう」と。みんなの助けを借りるのが上手な人だったから、したかもしれないですね。そういえば、人の助けを借りるのが上手な人でしたね。彼が亡くなった後、彼の幼なじみとか、小中高、大学と、そのお友達たち、あと同僚の皆さんに助けていただいていて。

 今は1人になったわけですけれど、日々、アキオという人の名前が私のそばから途絶えることがないんですよ。誰かと彼の会話をしている。だから、何か彼がやっぱりまだずっといるという感じがしています。寂しいけれども乗り越えられてきているのは、そういう人たちのおかげだなと。

駒村:なるほど。

クリコ:そして毎朝、NHKの「あさイチ」を見て、料理コーナーでイノッチ(井ノ原快彦)さんと駒村さんの掛け合いを見て、元気に、幸せになれるんですよ。

駒村:うれしいです。ちゃんとしているように見えるのは、15分だけしかないですけど。あとはもうひどいものですけど。

クリコ:平日は毎日出演されていて、でもお母様の介護もされて、すごく大変だろうなと思うのですが、どうですか。

駒村:大変と言えば、大変ですね。今、一番大変かもしれないですね。ですけど、どんどん母のことが好きになるんですよね。なぜなのかは分からない。不思議なんですけど、何でしょうね。

介護をしているお母様のことを好きになる。

駒村:そうなんです。だからやらざるを得ないな、と思うというか。

クリコ:分かります。なぜでしょうね。私の場合、アキオは最強の夫だった。あまり病気しない人だったのでかえって不摂生で、お酒もたくさん飲むし、たばこもすごいし、病気になっても当然みたいな人ではあったんだけど、体も強かったし、魂も強いところがあって、私はそれに頼り切っているところがあった。

 その彼が急に倒れて、「ここは私がとにかく支えなきゃ」となったときに、何か今まで以上にすごく大切な存在になって、今まで以上に好きになったんですよね。

駒村:すごく分かるような気がする。何だろう。

クリコ:何でしょうね。

駒村:すごく大変なんですよね、こっちは。大変だよ、まったく、とは思うんですけど。

クリコ:精神的にも物理的にも大変ですよね。でも、好きになっていくって何か分かります。

きりがないんですよ…

駒村:本質が見えてくるんですよね。何となく。で、ああ、この人が母親でよかったなと思う瞬間もあったりして。「この人に、こういうところがあったんだ」と思うと、色々な機能を失っても誰に対しても分け隔てなく優しい姿に出会ったりすると、人として、この人と関われてよかったなと思ったり、うーん、上手く言えません。不思議なんですよね。

クリコ:でも、やっぱりそういうふうに思ってもらえるお母様も幸せですよね。

駒村:いや、でもご主人もそうですよね。

クリコ:主人は、アキオはどうかな。私はどうだったかな。精いっぱいやったんだけど、あのとき、あれをしてあげられたらとか、あんなこと言わなければよかったなとか、あれを食べさせてあげたかったな、とか…。

駒村:それは、すごくある。きりがないんですよね。

クリコ:ないんですよ。

駒村:これはもう、きりがないんですよね。

クリコ:そう、ない。ないんですよね。

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