金融に農業、物流、建設、保険。2017年は様々な業種、業界でITを使った新事業や新サービスが相次いで登場した。
特定の業種や業界がITを使ったデジタル変革に挑む動きを、ITproは「xTECH(クロステック)」と名付けた。トヨタ自動車、コマツ、ソフトバンクといった大企業が、相次いでxTECHに動いた。
各社に共通するのはコスト削減や効率化にとどまらず、自らのビジネスモデルを組み替えたり新たな顧客サービスに乗り出したりする動きである。各業界のトップ企業があるときは自らデジタル事業に乗り出し、またあるときは気鋭のスタートアップと手を組むなど、選ぶ手段は様々。業種・業界に加えて、掛け合わせる側のテクノロジーもエレクトロニクスや建設などとIT以外へ多様化する兆しを見せるxTECH分野のランキングを見ていこう。
トップは「宅配ボックスが歩いてくる」。宅配分野のxTECH事例だ。主役は受け取り人の不在による再配達とドライバーの人手不足に頭を悩ませる宅配事業者と、従来にない技術で新サービスを提供する新興企業である。あえて深夜や早朝の時間帯に限って配達を請け負ったり、自動運転技術で自ら顧客宅へ動いていく宅配ボックスを開発したりしている。宅配分野のxTECHは9位にも「最大手ヤマトの挑戦」がランクインした。
ランキングで目立ったのが農業分野のxTECH、いわゆるアグリテックの記事である。2位の「古巣のシステムを使わない、元富士通SE「第二の人生」」は第二の人生として農業の道を選んだ元富士通SEの農業奮闘記。IoT(インターネット・オブ・シングズ)技術を使った農作物の生育管理システムを独自開発。とにかく安くするため、あえて古巣である富士通のシステムは使わないという決断を下した。このほか「『これはレタスか雑草か?』、草むしりはロボットにお任せ」(5位)、「『植物の知性』は炎上プロジェクトを救えるか?」(6位)、「『植物工場』で作った野菜を食べない日はない」(8位)、「農業ITの主役は大麻!?」(11位)、「AI植物工場のノウハウを輸出、売り上げ3倍増へ」(12位)、「FinTechの次は『アグリテック』? 産官学が普及に向け団結」(16位)がそれぞれランキング入りした。
金融×ITのFinTechの記事も目立った。3位の「2年連続で改正銀行法が国会成立、銀行にAPI公開の努力義務」はFinTech企業をはじめとする多様な企業が銀行機能を組み込んだサービスを開発できるようにすることを報じた。xTECHをさらに促す仕組み作りを銀行や信用金庫に促すものだ。4位の「『ブロックチェーンよりMac対応を』、法人ネット口座の悲しい現実」、19位の「トヨタがブロックチェーンに触手を伸ばす理由」も同じくFinTech分野の記事だった。
xTECHを成功させる手段としてにわかに注目を集めているキーワードが「オープンイノベーション」。オープンイノベーションの熱狂ぶりに焦点を当てた記事もランクインした。7位の「『上から目線』と『儲かりまっか』がオープンイノベーションを失敗させる」は、オープンイノベーションで大企業が陥りがちな失敗ケースを指摘した。13位の「『日本版シリコンバレー』に大企業が熱視線、投資だけでなく協業も」は米国の著名ベンチャーキャピタルの500 Startupsが神戸市と組んで実施した起業家育成プログラムの様子をレポート。スタートアップとの協業を模索する大企業の熱気と、協業を阻む文化や制度の壁の存在を指摘した。ソフトバンクグループの孫正義社長が率いる「10兆円ファンド」構想がxTECHにもたらすインパクトを報じたのが18位の「ソフトバンク「10兆円ファンド」に集う同志の素顔」だ。
様々な産業のなかでもIT化が遅れていると指摘されることもある建設業界。いま建設業界のxTECHの動きが急ピッチで進んでいる。10位の「多重下請けの問題をITで解決、ただし建設業界での話」は同業界にはびこる多重下請け構造の弊害を、ITで解決しようとする動きをまとめたものだ。建設機械大手のコマツが挑むxTECHの取り組みを報じた「コマツが自前主義を捨てる、ドコモらと建設クラウド提供へ」(14位)もランキング入りした。
15位の「生損保「インシュアテック」に動く」は保険×ITのインシュアテックに大手生損保が乗り出したことを報じた。人工知能(AI)やIoT、ビッグデータ分析の技術を使って、新たな保険商品を開発したり保険事務を効率化したりする動きである。
自動運転に音声対話できるAI、表情解析、走行状況のビッグデータ解析。クルマ×ITが一大テーマとなった第45回東京モーターショーの様子を報じたのが17位の「 東京モーターショー開幕、クルマ×ITが続々」だ。
変わり種は選挙×ITの「 選挙アプリで脱・どぶ板、知られざる衆院選の舞台裏」(20位)。どぶ板の代名詞があるようにIT化や効率化とは無縁に思える選挙の分野でもxTEHCが進みつつあることを示した。