タイトルからもわかるように、『弁護士だけが知っている ムダにモメない33の方法』(佐藤大和著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は弁護士。メディア・エンターテイメント分野の法的トラブル、いじめ問題などの学校事故、家庭内トラブルなどの家事事件、解雇・残業代・退職金などの労働事件、債務整理、ママ友トラブル、刑事事件、企業法務、起業サポートなど幅広い業務を取り扱っているのだそうです。

本書ではそんな実績を軸として、モメごとを解決するためのコミュニケーション技術について解説しているわけです。その理由は、仕事柄、「『小さなモメごと』が『大きな争いごと』に変わっていくことを実感しているから。

モメごととは最初からモメごととしてあったわけではなく、数多くの要因が積もり積もって大きな問題へと変わっていってしまうという性質を持っているもの。そしてモメごとが小さいうちは、コミュニケーションを少し変えるだけで、驚くほどたやすく解決してしまうというのです。

この本でお伝えしたいことをとてもシンプルに言うと、人間関係は「対応」と「演出」でよい方向に変えられるということです。(中略)自分自身の行動を変えることで、人間関係を円滑にし、モメない人になるための方法をお伝えします。(「はじめに」より)

きょうは「モメてしまったときの相手への対応術」を紹介した第3章「起こってしまったモメごとを解決する10のトラブル対応術」から、いくつかを引き出してみたいと思います。

まずは落ち着いて、人をよく見る

著者によれば、争いごとに対応できる人間になるための第一歩は、「人をよく見ること」なのだそうです。「どれくらい人をよく見ているか」という能力、すなわち“人間観察力”は、シンプルで見落としがちだけれど重要なことだというのです。

相手に何かを伝えたいときは、まず相手をよく観察してみましょう。

言動や顔の表情などから怒っているのか、好意を持っているのか、または眠いとかお腹が空いているとか、いろんなことが見えてくるはずです。(中略)

相手をよく観察することによって、不必要に相手を刺激することをなくすことができます。(128ページより)

言動のなかに、相手が重きを置いているなにかがあるはずなので、そのちょっとしたポイントを見つけることが大切。相手が欲しいものを理解し、刺激しない状況をつくってみること、それが「争わない人」になるための第一歩だという考え方です。(126ページより)

モメたら相手の「消火スイッチ」を探そう

争いの場で弁護士として間に入るとき、著者は相手に隠された「消火スイッチ」はどこかと考えるのだそうです。すなわち、相手が求めている答えを探すということ。それを探すことができれば、話はたいてい、よい方向に向かっていくというのです。

そして、争いを前に気が立っている相談者であれば、まず「なにがゴールなのか」「なにが目的なのか」を聞くのだとか。お金を取り戻したいのか、仲なおりしたいのかなどの目的に合わせて、和解につながるストーリーを組み立てていくというのです。

これが仕事の場合であれば、「相手がなにを求めているのか」を知ることはさほど難しくはないはず。たとえば営業であれば、得意先に求めていることを聞くだけで済むわけです。また、上司や先輩が求めているものの多くは「結果」でもあります。

しかし人間関係においてなにを求めているのかということは、多くの場合、なかなか知ることはできないもの。ましてや争いの状況であればなおさらなので、会話のなかから探していくしかないということです。

聞き出すためには自分の話をするより聞き役に徹しましょう。口論になっていたり、常日頃から険悪な関係が続いていたりすると、なかなか会話を成立させることが難しいと思います。しかし、ここは勇気を出して、「どうしたいのか?」と聞いてみましょう。(132ページより)

燃え上がってしまうのは、怒りの根底にある本質をつかむことなく、頭ごなしに攻撃しあい、互いに嫌いあってしまうから。しかし火傷を我慢して消火スイッチを探せば、関係改善への道が開けるというわけです。(130ページより)

相手の本心を聞き出す

では、争っている相手から本心を聴き出すためには、どのようにすればよいのでしょうか? このことについて考えるときに重要なポイントは、「人の話を聞く」とは、ただ人の話に耳を傾けるということだけではないということ。聞くという行為は、顔の表情や動作も含めてのものであるということを肝に銘じるべきだというのです。

たとえば上司や先輩、友人から怒られたとき、話を黙って聞くのは当然のこと。しかしそんなときに不満そうな顔や、納得していない顔を見せてしまうと、火に油を注ぐことになってしまいかねません。

争いの場において話を聞くときは相手が話して満足する空気づくりが大切です。相手の承認欲求を満たし、否定をせずに聞くことです。

このとき、その人の価値観で話をすることが大切です。

その価値観が自分とは違っても、否定せず、同意していなくともそれを顔に出さないことです。(135ページより)

相談者と話をしていると、この「聞く力」をうまく発揮できていない人が本当に多いと感じるのだとか。

基本的に、争いの根底にあるのは「不満」。だからこそ不満の正体を明らかにすれば、争い事は一気に収束へ向かっていくといいます。うまく相手の本心を聞き出せないのは、「心の底から共感しなくてはいけない」と考えてしまうから。しかしトラブル対応においてはそのようなことを気にする必要はなく、あくまで争いごとをなくすために行動すればよいということです。

ところで「聞く力」を鍛えるための、簡単なエクササイズがあるのだそうです。

1. 日頃の会話では、ただ耳を傾けるだけでなく表情も意識する。

少しオーバーリアクションになってしまってもいいので、会話では表情を意識しましょう。びっくりしたことであれば驚いた顔を、悲しい話を聞いたら悲しい顔を意識的にするのです。

2. 相手の話を一度も否定せずに聞いてみる。

争いの場であればなかなか難しいかもしれませんが、日常会話であればやりやすいと思います。否定をせずに最後まで、人の話を聞ききってみましょう。意識的に聞く立場に回ることで、会話の中で聞くスタンスでいるための練習になります。

(以上、137ページより)

どちらも難しいことではないので、試してみてはいかがでしょうか?(134ページより)

失敗したら、「謝罪」と「改善策」を示す

失敗したときに言い訳をすると、より大きな争いへ発展してしまうと著者はいいます。とはいえ、怒られる場に向かうとなると、怖くなってしまうのも事実。きちんと謝罪をしたい気持ちよりも先に、自分のことを過度に守ってしまいがちだということです。

そこで、もし自分がうまく謝罪できないのであれば、最低限、次のことを書いて準備しておくとよいそうです。

・ なぜ、このようなトラブルが起こってしまったのかという経緯。

・ この問題の原因はどこにあるのか。

・ どうすればこの問題は解決するのか。

(146ページより)

まずは落ち度やミスを認め、きちんと謝罪することが大切。また、謝って相手を落ち着かせてから、理由を説明することも必要。そしてそのうえで、具体的な改善策を提示するわけです。この段階で大切なのは、「具体的」であること。なぜなら抽象的な改善策は、「なにも考えていない」と相手をさらに怒らせるだけだから。

さらには表情も大きなポイント。「申し訳ない」という気持ちは、表情でも伝える必要があるということです。改善策を伝えるときは、自信を持って明るい顔で。このように表情を意識することで、より相手に「伝わる」謝罪ができるようになるといいます。(144ページより)




ちょっとしたトラブルは、誰にでも起こりうるもの。だからこそ、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか。

Photo: 印南敦史